大震災の教訓を生かせ!

~JSCAのこれまでの取り組みと今後~

 

JSCA規準の概要

「建築の構造設計」、「建築構造の計算と監理」
(社)日本建築構造技術者協会

1. はじめに

2002年6月に、JSCA規準を取りまとめた「建築の構造設計」と「建築構造の計算と監理」という2冊の本が、出版されました。
JSCA基準は、(社)日本建築構造技術者協会(略称:JSCA)が、約4年の準備期間をかけ、多数の委員の手によって作成されたものです。
その構成は、
①倫理規定
②建築構造設計規範
③建築構造設計指針
④目標性能と性能メニュー
⑤建築構造計算指針
⑥建築構造監理指針
からなり、とくに③~⑥をJSCA規準と呼んでいます。

2. JSCA規準制定の背景

2.1 JSCAの悲願

背景の一つは、当協会の前身にあたる「構造家懇談会」の発足当時の1980年にさかのぼります。 そもそも、この懇談会発足の動機に、この“自ら作成した規準”ということがあったのです。
当時は、宮城沖地震の災害教訓や動的設計法による知見から、構造設計法や建築基準法耐震規定の見直しが行われ、 1981年に、いわゆる「新耐震基準」の法令改正が行われました。しかし、その改正に参画できたのは、学界と官界だけで、 実際に設計・監理にあたる民間技術者が関与することはできませんでした。
建築構造実務者の協会等が未組織であったことが関与できなかった原因と、民間技術者が反省し発足したのが「構造家懇談会」であり、 次回の改正時に参画すること、そして、独自の規準を制定することは、当協会の悲願であったといえます。

2.2 阪神淡路大震災の反省

1995年1月に起こった阪神淡路大震災は、約6,000人の貴重な人命を損なうとともに、多数の建築物、構造物に甚大な被害をもたらしました。
われわれ構造設計・監理者も、被害対応や補強・改修に駆けずりまわり、多くの建築主や管理者の方々とお会いしました。ここで、大いに反省させられたことがあります。
①建築主の方々が、「建築基準法によって建設された建築物は、どのような設計・監理でも十分な耐震性を備えている」と信じていたことは、構造技術者の説明不足で、怠慢でした。
②構造技術者は、「大地震に対しては人命保護の目的が達成できればよい」と思って設計してきたが、建築主は、「被害が少なくて財産保証が達成されるとともに、機能保持の性能を、より希求している」ということでした。
そこで、この反省により、“建築構造の性能には、最低グレードのものから、高グレードのものまで幅があること”、 “法令が対象外とした性能項目に重要なことがあること”を説明し得る性能設計手法が、ぜひにも必要であると考えました。

表1 JSCA規準の背景と経過

1981 /06 建築基準法改正(新耐震設計法)
1989 /07 構造家懇談会が法人化し、(社)日本建築構造技術者協会 設立
1991 /04 「構造設計規範(案)」 公表
1992 /06 「構造設計規範」 制定、「構造設計の基本(案)」 提示
1993 /10 「建築構造の設計」(オーム社) 発行
1995 /01 阪神・淡路大震災
/04 建設省総プロ「新建築構造体系の開発」 委員参加
/11 大震災 アクションプログラム 発表
1997 /03 大地震時の建築物 機能維持のための設計技術資料の収集 完成
/03 承認規準書(Approved Document)の構成及び建築物の性能評価法 調査研究 完成
/06 大地震 JSCA提言 アクプロ報告 発表
  規準作成が青木繁前会長の主要テーマに
/07 JSCA規準作成意見交換会(21人) 発足
/11 JSCA規準作成推進委員会議(24人) 発足
1998 /03 建築構造設計の社会機構に関する実態調査アンケート報告書(本編)完成
/03 建設省総プロ 「新建築構造体系の開発」 発行
/06 JSCA規準作成委員会(43人) 発足
  規準作成WG及びSWG 技術委員会内に組織
2000 /06 建築基準法改正(限界耐力計算等)
2001 /03 「建築構造設計指針」 理事会にて査読、承認
/06 「建築構造設計指針」 総会にて承認
2002 /06 「建築の構造設計」(オーム社)及び「建築構造の計算と監理」 発行

図1 性能設計の流れ

表2 JSCA規準の構成

●JSCA倫理規定 「建築の構造設計」
(構造設計の要点を含む)
●JSCA建築構造設計規範
●JSCA規準 Ⅰ建築構造設計指針
Ⅱ目標性能と性能メニュー
Ⅲ建築構造計算指針 「建築構造の計算と監理」
Ⅳ建築構造監理指針

3. 規準のねらいと基本姿勢

3.1 規準作成のねらい

21世紀を迎え、社会は大きく変化し、進展している中、JSCAは高度な構造技術を持つ専門集団であり、 発注者が求める快適な(居住性、機能性)、長持ちし(耐久性、修復性)、安全で(安全性、耐火性)安心な設計が出来る能力を持ちたい。
そのための規準は、実務者による自ら作成したものとし、図1に示すような性能設計を基本の考え方にし、 建築基準法の性能規定化動向も踏まえつつ、遠い将来をにらみ、近い将来への適用も含み、幅広く使える規準となることがねらいです。

3.2 規準作成の基本姿勢

規準作成のねらいを基にし、性能設計を前面に出した規準を作成するにあたっての取組み姿勢を、以下に箇条書きに記します。
  • すべてにバランスの良い建物ができる規準を目指す。
  • 性能のうち、シビルミニマムとして法令で最低限度が求められているもののほか、発注者と設計者が協議し、発注者が決定する部分も含める。
  • 法令以外の部分で、発注者と設計者の協議に必要な高度な技術知識と判断力を支援するための内容を充実する。
  • 協議して決定する事項に関連した資料は、可能な範囲で発注者に分かりやすい方法で示し、性能表示に対応しやすい分類・表現にする。
  • ソフト的・ノウハウ的なものと技術情報的なものの両方で構成する。
  • 感性的なことへの配慮、陥りやすいことへの注意などを含めたガイドラインとする。
  • 構造設計実務のためマニュアルを用意する。
  • 多様な設計法やグレードがある時代に、設計者がどのような選択をするのかのマナーを示すことでもある。

4. JSCA規準の構成

JSCA基準の構成は、表2に示す通りですが、今回これを2冊の本に分けてまとめました。
「建築の構造設計」は,JSCA会員や構造技術者だけでなく、一般の人や学生の目にも触れ、建築の構造設計というものを理解してもらえるように、オーム社からの出版としました。
一方、「建築構造の計算と監理」は、まずはJSCA会員用にと簡易製本とし、事務局扱いとしています。
以下に、その概要について説明します。

4.1 倫理規定

倫理規定は、「建築の構造設計」の第1編に収録され、職能の維持向上のために必要な、最小限の「行動の規範」をまとめたものです。
その内容は、職業人にとり至極当然な規定で構成されています。

4.2 建築構造設計規範

建築構造設計規範は、「建築の構造設計」の第2編に収録されています。
この規範は、建築構造の設計・監理を行う上での「思考の原点」を表したものです。 建築構造設計・監理者の職能を強く意識するとともに、地球環境にも配慮してまとめました。

4.3 建築構造設計指針

この指針は、表3に示す内容で、「建築の構造設計」の第3編に収録されています。建築構造性能設計の手順を示すとともに、性能設計の流れの中間プロセスである具体的な構造計算の方法は後述する「建築構造計算指針」に譲り、性能設計の入り口部分である検証の対象となる基本的な荷重の考え方と設定、および出口部分である限界状態を検証する場合の判定の考え方を示しました。
目標とする性能は、日常的に作用する荷重に対する使用性・居住性の検証、稀に作用する荷重に対して構造体および非構造部材の損傷防止の検証、 極めて稀に作用する荷重に対して人命を保護する安全性の検証の三本立てです。

4.4 目標性能と性能メニュー

これは、「建築の構造設計」の第4編に収録され、設計者が性能設計に認識を深めるツールとして作成されています。これを基に各プロジェクトで各自が最適メニューを作成することとしています。
ここでは性能の意味づけ・要求性能項目の分類・各項目のグレードごとの目標性能とその工学量、を明らかにしています。
グレード設定は、性能項目ごとにそれぞれ、建築基準法の要求性能とほぼ同等のものを基準級、中位以上を上級、特級の3段階としました。

4.5 建築構造計算指針

計算指針は表4に示すように、荷重・外力の具体的設定に始まり、構造種別ごとの構造計算法、耐久・耐火設計法などが記述されています。
ここでの主眼は部材の耐力評価式を特定したということです。特定することで設計結果のばらつきを防止し、公明性を確保しました。

4.6 建築構造監理指針

性能設計された建築構造物が、設計図書に表現された設計品質を確保した施工が行われているかを確認する工事監理のあり方を規定したものです。
工事監理の業務区分や監理方式を解説し、工事監理計画書や工事監理報告書によって工事監理を行うこと、 また工事項目ごとの工事監理チェックリストを有効に活用して品質確保に努めることを推奨しています。

4.7 構造設計の要点

「建築の構造設計」の第5編に収録されている構造設計の要点は、建築の構造設計において陥りやすい陥穽や勘所を図解で示したものです。
以前のものに、①阪神・淡路大震災の教訓、②免震・制振構造、③空間構造、④耐火・耐久設計に関する事項を補い、増強しました。

表3 「建築の構造設計」第3編「建築構造設計指針」の構成


§1.指針総則および構造性能設計
§2.構造計画
§3.設計用荷重・外力
§4.構造材料の特性
§5.構造部材の特性
§6.構造骨組の特性と目標性能
§7.構造各部の設計と目標性能
§8.非構造部材などの耐震耐風設計と目標性能
§9.耐火設計
§10.耐久設計
§11.保有性能と検証
§12.設計図書
§13.監理と品質の検証
§14.維持管理計画

付録1.解析法の概要
付録2.耐震性能検証の手順と概要

表4 「建築構造の計算と監理」の構成

● はじめに
● 建築構造計算指針
第Ⅰ編 設計用荷重・外力
第Ⅱ編 鉄筋コンクリート構造
第Ⅲ編 プレストレスト
コンクリート構造
第Ⅳ編 金属構造
第Ⅴ編 混合構造
第Ⅵ編 空間構造
第Ⅶ編 木質構造
第Ⅷ編 基礎構造
第Ⅸ編 免震・制振構造(割愛)
第Ⅹ編 耐火設計
第XI編 耐久設計
付録1 検証法
付録2 多質点系の時刻歴応答解析
付録3 設計用模擬地震動JSCA波
(数値データはCD-ROM)

● 建築構造監理指針
7. はじめに
8. 目的および契約
9. 行政の取扱い
10. 監理方式
11. 工事管理計画と工事監理報告
12. 工事項目ごとの工事監理方法

(全ページをCD-ROMに収録)

5. 今後の運用

このJSCA規準は、現時点では確認申請において法的有効性はないが、多くの方々によって、 考え方や実際の計算に活用し、確かな性能設計のために役立て頂ければと考えます。


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