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構造技術者の賞『JSCA賞』

第16回JSCA賞 作品賞 彩の国くまがやドーム

 
屋根荷重を受ける直径60cmのリングビ-ムを
直径40cmの逆V字柱が支えている。

ド-ム航空写真

1.楕円形平面と逆V字柱

ドームの原形は現存するローマの遺構パンテオンである。巨大ドームの平面は力学的有利性からほとんどパンテオン形の円形であるがこのドームは楕円形が特徴である。楕円の場合はドーム支点(逆V形柱の頂部)で発生する重力による屋根荷重の水平成分(スラスト)の支え方が問題となる。円形の場合は全ての水平成分がテンションリングの張力と釣り合い、下部構造に水平成分が作用しないが、楕円の場合は水平成分の大部分を下部構造で支えなければならない。彩の国くまがやドームでは逆V形の柱がこの水平成分を合理的に支えると同時に全ての重力及び地震、風圧力も支えている。

2.ダイヤゴナルステイ

歴史的に見るとほとんどの巨大ドームはダブルレイヤーである。屋根の曲げ剛性を増して全体座屈を防止するためだ。しかしシングルレイヤーの魅力は部材数が半分以下になるため、構造が単純化し、製作施工が著しく簡単になることだ。屋根面の全体座屈現象は互いに隣り合う節点(格子交点)間同士の屋根面に垂直方向への相対的変位差によって引き起こされる現象であるから、相対的変位を何らかの方法で拘束できれば座屈現象は抑制できることになる。ダイヤゴナルステイとはこの節点間の相対変位を拘束するため、単層格子の全ての節点に、長さ2mの束を取り付け、束の先端からダイヤゴナルに隣り合う4節点中心に向かって張ったステイ(Stay:ポスト頂部から斜め下方に設けた支索)を言う。このステイにより、任意の節点の屋根面垂直方向の正負の変位 がダイヤゴナルに隣り合う4節点の変位と関連つけられ、節点間の相対変位が拘束されることになる。彩の国くまがやドームで開発されたダイヤゴナルステイは、シングルレイヤーの全体座屈を抑制する効果が非常に高く、このシステムを取り付けることにより荷重を支える能力がステイ無しの構造に比べ5倍以上増加した。この結果長径250m、短径130mの楕円ドームが直径35cmの鋼管を用いた、10m格子の単層ドームで実現することができた。

左■DS(ダイヤゴナルステイ)はメインポスト頂部から対角のノ-ド(格子格点部材)中心に向かって「たすき」に掛けるれる。

下■鋳物で作られた総数300個の格子格点部材。取り付く直径35cmの4本のパイプの内二本は地組みして建てられた。

3.カプラースクリュージョイント

通常ドーム部材のジョイントはHTボルト接合か溶接である。HTボルトは全天候形であるが建築的美しさを損なうのが欠点である。溶接は美観上優れているが、天候に左右され、品質のコントロールが厳格な上に溶接熱歪によりドームが歪み全体座屈を助長するのが問題である。彩の国くまがやドームでは格子パイプの直径が35cmと細いので鋳物の格子部材(約300個)とのジョイントがこの規模では他に例を見ない機械的なスクリュージョイントになっている。

4.一部膜屋根を用いた明るい内部空間

ド-ム内観

大規模ド-ムのような大きな内部空間の採光は自然採光では不十分なため、一般的には大規模な人口証明を必要とする。しかし屋根材に膜材を用いれば、外部と同等な明るさを持つ内部空間を人工照明無しで実現することができる。彩の国くまがやド-ムでは可動間仕切りで仕切られた体育館には金属折板屋根が用いられ人口照明による採光となっているが、多目的運動場には採光に必要な領域を膜屋根とした、ハイブリッド屋根構造が採用されており運営コストの削減が図られている。

5.生産施工を含めた共同作業

彩の国くまがやド-ムのいま一つの特徴は鋳物による格子交点部材の採用やネジ加工など機械加工技術の導入、およびそれらの現場施工管理やダイヤゴナルステイの張力管理といった通常の建物の領域を超えた多領域の職種と設計者の共同作業である。直径35cmの太物部材の機械的ネジ接合は建築の分野では経験が無いため試作と建て方実験が繰り返し行われた。その結果一組の作業班で一日最大7組のL形ユニットのネジ組み立てが可能となり、

ド-ム建て方風景。
ド-ムは両側から中央に向かって建てられた。
組み立て精度もド-ム全体で2cm~3cmと非常に高い精度が得られている。 DS(ダイヤゴナルステイ)には一本あたり60kNの張力を導入する設計となっているが、全てのDS部材(約2300本)の張力を把握するため、張力測定にEMセンンサ-(磁気歪を利用したセンサ-)約580個が用いられている。張力の測定と調整は日中の温度変化の影響を避けるため夜間に行われ、ほぼ目標通りの張力に収束させることができた。


文・資料提供:梅沢良三(梅沢建築構造研究所)

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