ホーム 建築構造を理解するために 特集耐震強度偽装事件についての問題点とJSCAの活動

耐震強度偽装事件についての問題点とJSCAの活動

 

1.現状認識と問題点

1.1 構造設計者の役割

図1 構造設計者の役割

今回の事件は、構造計算を偽造し、それに基づいた構造設計図により耐震強度が偽装された建物を世の中に送り出してしまったということです。これを機会に構造設計という業務があることをはじめて知った人も多いと思います。構造設計者の役割として構造設計と監理という業務があります。構造設計は、図1に示したように構造計算と構造図面の作成だけではなく、それらに先立って構造計画を行なうことまでを含みます。

構造計画とは建築主の意向をもとに、建築計画との整合性とを計りながら、様々な構造システムの可能性の中からそれぞれの建物に相応しい構造(骨組)のシステムを考え出す創造的な行為です。矛盾する与条件のバランスを考えながら専門家としての判断が求められ、場合によっては、構造的な検討結果により建築計画を作り直していくこともありえます。計画された骨組に対して構造計算を行った後でも、結果によっては計画を練り直すこともあります。このように構造設計は常にフィードバックを繰り返す行為です。しかし、ここで不足しているものは建築主と構造設計者の対話です。建築物の安全性の考え方については、統括(意匠計画)事務所と建築主の打ち合わせでは十分に意思疎通が計られません。生命と財産を守る根幹をなす構造の安全性について、建築主と構造設計者が直接に関わるシステムに改善しなければなりません。

また設計図に基づいて建物の工事に際しては監理を行なうことも構造設計者の重要な業務です。

今回の事件の状況と同様に、一部のひとたちには、建築設計者から図面を受領し構造計画がないまま計算して図面を作るという一方向的な作業を行うひとたちがいます。仕事を早くこなすことを優先するため、設計に際してフィードバックを行なわず、単に作業としての構造計算、図面作成をするだけで、工事の監理も行いません。当然、情報は建築設計サイドからの一方通行であり、決まった仕事をこなす業務と見なされ、報酬も低い金額に抑えられてしまいます。本来の構造設計とはほど遠いものです。このような仕事の流れが一部で出来上がってしまっていることにも問題がありそうです。

1.2 構造設計者の位置づけ

図2 構造設計者の立場

確認申請とは建築士が法的適合性を審査してもらうために審査機関に申請を提出することですが、申請建築士は通常は意匠担当の建築士となります。認定プログラムを用いた際には利用者証明書に構造設計者(プログラム使用者)を記載するので、実際には計算書の中に構造設計者の名前が載ることはありますが、法的には表に出ることがありません。このように法的な認知もなく、建築主との接触も少ない状況で構造設計を行なっていると、設計者としての誇りを感じることもなく、単に建築図に基づいて構造計算だけを行う人を生み出すことにもなりかねません(図2)。しかし、法的な地位がなくても、そして社会的な認知がされていなくても、トラブルが発生した場合は、責任を負うことには変わりはありません。もちろん、設計図面に事務所名を掲げ、高い志で構造設計を行なっている設計者は大勢存在します。構造設計者が誇りを持って業務に携り、建築主からもその業務が認識できることが建物の品質確保のためには望ましく、構造設計者の立場を法的にも明確にしていく仕組みが必要ではないでしょうか。

1.3 構造計算とコンピュータ

要求される機能や形を満たした骨組を考えることが構造計画であり、計画した建物がさまざまな荷重を受けた時の状態を検証する手段が構造計算です。計画と解析の両方が兼ね備わって構造設計が出来上がっています。構造計算は、荷重計算、応力計算、断面算定の三つの部分からなり、荷重設定の妥当性、応力計算のモデル化の妥当性、断面の余裕度など、本来それぞれの結果を掌握し、全体像をイメージしながら行うことが必要です。これらの検討内容を連動させて行なうことができるソフトが一貫計算ソフトをと呼ばれ、さらに国土交通省で認定されたものが「認定ソフト」となります。たいへん便利なソフトですが、途中の過程がブラックボックス化されていることや数値合わせに陥りやすいなどの弊害があります。さらに審査にあたっても、認定プログラムを使用しているか否か、インプットデータが適切かというチェックに重点が置かれるような弊害も出ています。このプログラムを使用しているかどうかだけでは構造設計の審査はできないと考えます。設計全体を通しての設計者の考え方や設計内容の確認が重要ではないでしょうか。

図3 構造計算の流れ

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