特集『第18回JSCA賞』 作品賞

 
写真1

MIKIMOTO Ginza2

写真5
図1

早部 安弘(はやべ やすひろ)

■設計主旨

「MIKIMOTO Ginza2」は MIKIMOTOのブランドイメージともつながる「やさしさ」「軽やかさ」「上品な力強さ」を同時に表現する建築として、「深い輝きを放つ宝石箱」のような、構造と表層が一体化した構造システムによる力強いアイデンティティを持つ建築を目指した。そこで採用された構造が「鋼板コンクリート構造」である。 6mm~12mm鋼板の間にコンクリートを充填した非常に薄い壁状の構造体で、建物の全体の床を支え、内部に柱は存在しない。外壁の鋼板ユニットの溶接部は丹念に磨き上げて平滑にし、仕上げコーティングは 8工程にも及ぶ多層の塗膜の上に、 MIKIMOTOの真珠をイメージしたパール塗装を施した。この強固な外壁に「揺れ動く瞬間を捕まえた」ような流動的な開口パターンを穿つことで、建築のスケール感を打ち消すような、ある種の抽象性を持たせることを意図している。写真1図1
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■構造計画

構造と表層を一体化した構造システムによる力強いアイデンティティを持つ建築デザインの要求と、銀座という立地条件から壁的な構造にしてレンタブル比の高い居室空間にするという建築計画の要求から、外周部を構造体に利用したチューブ構造による架構システムの模索が始まった。トラス構造や板構造といった様々な選択肢の中から、シームレスな抽象性の表現としての流動的な開口とパール塗装仕上げから「鋼板構造」が選択された。しかし、高さ 48mの建物の荷重を鋼板だけで支えることはできず、やはり柱梁が必要になってしまい、鋼板は鋼板耐震壁の役割のみとなってしまう。しかも高層なので、耐火被覆も通常の鉄骨ラーメン構造と同様に必要になってくる。それらを一気に解決するために「MIKIMOTO Ginza2」では「鋼板コンクリート構造」を採用することにした。「鋼板コンクリート構造壁」は、 2枚の鋼板をスタッドによって緊結し、その間にコンクリートを充填して一体化した複合構造体である。充填されたコンクリートは建物剛性への寄与と鋼板の局部座屈を防止するための拘束材として働くので、鋼板の耐力を最大限に引き出すことができる構造体である。また、充填されたコンクリートの働きで CFT柱のように無耐火被覆も可能となり、鋼板面への塗装仕上げが可能となる。こうして「鋼板コンクリート構造によるチューブ架構」という構造コンセプトが決まったとき、建築の表層と構造との一体化を目指した設計コンセプトが現実となったのである。図2図3
図2
図3
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■鋼板コンクリート構造

「鋼板コンクリート構造」は原子力発電所の施設での実用化を目指して、電力会社を中心に研究が進められてきた経緯があるが、一般建築物への適用事例はない。原子力発電所施設の「鋼板コンクリート構造」はコンクリート部分の壁厚が厚く、鋼板部分が薄い、コンクリート主体の構造である。一方、「 MIKIMOTO Ginza2」で採用する有孔鋼板コンクリート構造壁はコンクリート部分の厚さが約 200mmに対して12mmの鋼板を使用しているため、鋼板が主体構造となっている。今回の構造設計では、設計用荷重による部材応力は全て鋼板部分が負担し、コンクリート部分は剛性効果と鋼板の座屈拘束材としてのみに寄与させている。実際には、充填されたコンクリートも十分な構造耐力を有しているため、「MIKIMOTO Ginza2」はリダンダンシーの極めて高い構造体となったのである。

①鋼板コンクリート構造壁の構成

鋼板コンクリート構造の構成を図4に示す。スタッドは鋼板の局部座屈を抑えると共に、コンクリートを充填する際のはらみ止めの役割も果たしている。コンクリート厚 200mmは火災時に建物を支持させるという耐火設計の条件より決定された。道路側の方に厚い鋼板を使用しているのは、道路側の方が開口が多いということと、道路側では鋼板の溶接による変形を出来る限り抑えるという配慮からである。また、外側鋼板は塗装仕上げ面を面一に見せるために全階で同一厚とし、内側鋼板は応力に応じて板厚を切り替えている。表1
図4
写真2
写真3
写真4

②鋼板コンクリート・パネルユニット

鋼板コンクリート構造壁は、ユニット化された鋼板パネルを工場で製作し、現場で建方をした後、コンクリートを充填する。1枚のパネルの大きさは、工場での製作限界、輸送時の制限、建方時の吊揚重量を考慮して「幅2.4m階高( 4.5mまたは5.0m)」と決定した。一つのユニットパネルの4周には形鋼で枠フレームを形成している。枠フレームは形状保持材であり、パネル同士を溶接する際の裏当て金でもある。写真2

③建方順序および現場溶接

1層を構成するパネルは32体である。建方時はL字型のコーナーパネルを建てて四隅を固め、その後に平型パネルを建てていく。このとき平型パネルは外側に数ミリ傾斜させておく。これは水平目地の溶接時に外側と内側で溶接線が1本と2本で異なるために内側に倒れこむ傾向を防ぐ処置である。また、 1枚の鋼板厚は 6mm~12mmなので、現場溶接は 2層から3層盛となる。本工事では1層目の溶接が終わった段階で、コンクリートを充填し、その後に溶接を仕上げるという手順を採用した。空の鋼板パネルの溶接を先に仕上げてしまうと溶接部の収縮による角変形が大きいため、コンクリートによる拘束効果を利用して、溶接歪を抑えるために考案された。写真3写真4
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■構造解析モデルおよび断面の検定

図5
本建物の構造解析には有限要素法を用いている。建築 CADデータをから不定形な開口を忠実に再現した 3次元 FEMモデルを構築した。壁体は鋼板とコンクリートとの積層構造であるが、解析モデルの要素では鋼板とコンクリートの平面保持仮定により鋼材に置換した等価断面性能を有する 1枚の「板要素」でモデル化している。「板要素」では面内応力に加え、面外の曲げモーメント、せん断力、捩れモーメントも考慮している。解析の要素厚は鋼板コンクリート壁を鋼材の断面に置換した等価断面厚である。しかし、等価断面厚のままでは、面外の曲げ剛性および面内のせん断剛性が、実際の複合構造部材である壁体の剛性と合わない。そこで、等価断面厚によって定める面外曲げ剛性と面内せん断剛性に対して補正係数を与えて解析を行った。そして、断面の検証は、 FEM解析の要素応力を全て鋼板に分配した上で、面外の応力も含めた組合せ応力によって鋼板が許容応力度以内であることを確認した。その解析結果を見ながら応力の集中している部分(特に開口と開口のすきまが狭い部分)の開口の大きさや位置を調整していくといった作業が繰り返された。この外壁 CADデータと解析用形状データの共有化が、今回の設計の中で大きな役割を果たしている。図5写真5
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■各種実験による検証

写真6
本建物で使用している「鋼板コンクリート構造」は 200mm厚のコンクリートに対して 12mm厚の鋼板が使われているので、全耐力における鋼板部分の占めるウェイトの高い構造体である。従って、既往の研究の規定範囲外となるので、本建物の安全性を確認するために実験を行った。実験は圧縮実験とせん断実験を行い、その結果を基に設計を進めた。また、本建物は基準法上では鉄骨構造であり、耐火被覆が必要となる構造体である。しかし、外装が塗装仕上げであること、力強くエレガントなファサードであるためには壁厚が極力薄くあるべきという建築的要望から鋼板コンクリート構造壁の無耐火被覆を実現する必要があった。そこで、建築基準法上でのルート C耐火設計を採用し、耐火性能確認試験を行い、防災性能評価ならびに大臣認定を取得することで、無耐火被覆を実現している。さらに、構造解析での設計と平行して、実際にモックアップを製作し、建方、溶接、コンクリート打設、塗装工事などの建設時に起こりえる様々な問題点の抽出を行い、施工に反映させていった。写真6
文・資料提供:早部安弘(大成建設株式会社)
写真1写真5提供:三輪晃久写真研究所

■建物データ

建設地 東京都中央区銀座 2丁目
建物用途 店舗、テナントビル
設 計 伊東豊雄建築設計事務所
佐々木睦朗構造計画研究所
大成建設株式会社一級建築士事務所
施 工 大成建設株式会社東京支店
建物規模 地上 9階、地下 1階
建物高さ 47.9m
建築面積 237.69m2
延床面積 2205.89m2
構造種別 鉄骨造(鋼板コンクリート構造)

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