写真1
特集『第21回JSCA賞』作品賞

 

2009高雄ワールドゲームズメインスタジアム

渡邊 秀幸(わたなべ ひでゆき)

1 はじめに

写真2

高雄市北部郊外の左營区に位置する『高雄スタジアム』は、2009年夏に開催された「第8回ワールドゲームズ」の主会場として計画された写真1、写真2。40,000席(仮設増設席を加えると55,000席)を収容するこのスタジアムは、陸上競技(IAAF公認400mトラック)、サッカー(FIFA公認フィールド)の他、コンサート、エキシビションなど様々なイベントに利用される多目的施設である。本スタジアムには、後述する3つのデザインコンセプトと共に、スタジアムの屋根には太陽光発電システムソーラーパネル(約6,500枚)が設置されており、21世紀の環境配慮型のスタジアムとして、高雄市が世界に発信する新たなシンボルである。

2 計画概要

図1
図2

本スタジアムは、国際設計施工コンペで私たち設計JVが最優秀賞を受賞して建設されたものである。私たち設計JVは、従来のスタジアムには無い全く新しい21世紀のスタジアムとなる3つのデザインコンセプトを提案した。第1に、従来の閉鎖的なスタジアムとは異なり、敷地南東側のMRT駅からの来場者を自然に迎え入れる表情と多くの人々のアプローチの自然な流れをつくり出すことを意図して計画した「オープン・スタジアム」、第2に、競技やイベントの無い日常時でも高雄市民の憩いの場となるように、スタジアムとランドスケープを一体化させた都市型公園を創造することを意図して計画した「アーバン・パーク」、第3に、イベント時に来場する人々の高揚感を高めながら人々を観客席に迎え入れることを意図して計画した「スパイラル連続体」である。写真1、図1、図2

3 構造計画

この明解な3つのデザインコンセプトを具現化するにあたり、シンプルな構造計画により表現される繰り返しの合理性と美しさを追求することを第一の構造設計方針とした。この方針にしたがって、高い安全性の確保、機能性の確保、高い生産性と短工期への配慮、環境への配慮、経済性への配慮を行った。

図3

「オープン・スタジアム」のデザインコンセプトに基づき、本スタジアムの観客席を覆う屋根架構には、ストラクチャとして閉じることなく、開かれた構造が要求された。従来の閉じた構造形式とは異なるこの課題に対し、屋根重量を支える主架構は、構造的に自立する跳出し長さが約30~40mのブーメラン形状の鉄骨造片持ちトラスとした。2点で支持されるシンプルな片持ちトラスを細かい間隔でリズミカルに連続させることをまず一つの構造コンセプトとした図3、図4。このブーメラン形状の片持ちトラスは、およそ5.5m間隔と比較的細かいピッチで放射状に並列配置(計159本)されるが、その分、上・下弦材の部材サイズをおさえることができ既製H形鋼の使用が可能となった。上・下弦材で用いた既製H形鋼の他、既製角形鋼管の束材および既製角形鋼管(トラス脚部から中央部)とロッド材(中央部から先端部)の斜材により片持ちトラスを構成した図5

図4 図5

並列する片持ちトラス群の上下面を螺旋状に取り巻き、屋根の一端から他端までトラスの節点を斜め方向に連続する要素が、デザインコンセプト:「スパイラル連続体」を表現する“オシレート・フープ”である図3、図6、図7。約2.5~3.3m間隔で配置される32条(=片持ちトラス節点数)の“オシレート・フープ”は、318.5φの鋼管とし、視覚的に強調させるためにトラス上・下弦材とは偏芯させて部材を通すように配置し連結した。この“オシレート・フープ”は、片持ちトラス群を一体化させる横架材であり、屋根の面内剛性を保ち地震や風荷重による水平力を下部に伝えるブレース材としての機能を果たすとともに、特にトラス上面の“オシレート・フープ”はソーラーパネルユニットを支えるセカンダリー要素として活用した。

図6
図7 図8

このように、屋根構造の機能を“片持ちトラス”と“オシレート・フープ”の2要素に明解に集約させ、構造的に最小限の部材構成とし、さらにそれらを密に連続させることで部材断面を小さくおさえた。これにより、屋根全体の軽量化を図るとともに、繰り返し・連続性の美しさをより強調し、ファサードとしての有機的機能も合せた屋根架構を構築しデザインコンセプトとの融合を図った写真3、写真4

写真3
写真4
写真5

もう一つの連続する構造要素が、印象的なフォルムを有する“サドル”図3、図8、写真5とそれらに支持される上部スタンドである。

“サドル”は、RC造の曲面壁と床で構成されるチューブ状の架構であり、同一形状のユニットを屋根片持ちトラスのピッチに合せて周方向に配置し、連続性を表現した。“サドル”はコンクリートの自重による応力が過半を占めるため、壁と床に中空ボイド構造を採用し自重低減を図った。同一形状の“サドル”とすることで、鋼製型枠の転用が可能となり、品質的にも工期的にも効率良く施工できた。

上部スタンドは、サドルの上に配置した斜め梁とプレキャスト段床により構成した。斜め梁はH形鋼のウェブ内にコンクリートを充填したSC梁として剛性を確保し、屋根片持ちトラスのピッチに合せて配置した。SC梁を含む段床の床剛性は、スタジアム・ドーム建築の実測データを基に日本の環境振動基準に照らし合わせて設定した。

多目的競技場としての関連諸室や駐車場などを収容する地下構造は、下部スタンドの段床の支持と屋根および上部スタンドからの力を基礎に伝達するため、放射方向と周方向の両方向に対して頑強なRC耐震壁付ラーメン構造とした。

基礎構造は、現状地盤面-15mまでの砂層に液状化の危険性が有ったため、基礎底面全体に渡って液状化防止の地盤改良を施した上で、台湾では初めてとなるパイルド・ラフト基礎を採用した。日本国内での実績を基に、高支持力が要求されるサドル直下のみにPC杭を配置し、基礎接地圧分布の均等化を図った合理的な基礎計画とした図3

全体架構としては、それぞれ形状や材料が異なる①プレキャスト造の段床を支持する直線材のSC造斜め梁、②ブーメラン形状の屋根“片持ちトラス”とそれらを覆う“オシレート・フープ”、③RC曲面の“サドル”の3つの構造エレメントを断面的にわずか‘4点’で安定的に結合し、それらを周方向に繰り返し連続し、地下構造と連結させてストラクチャ全体として統合した図3。これにより国際規格のスタジアムとして相応しい構造性能を満足させた。


4 おわりに

以上のように、高雄スタジアムは各構造エレメントの役割を整理しシンプルな架構構成でそれらを周方向に繰り返し連続させて全体の架構を構成している。これによってリズミカルな美しさと連続性が強調され、デザインコンセプトを実現できたのではないかと考えている。

建物概要

建物名称 2009高雄ワールドゲームズメインスタジアム
所在地 台湾高雄市左營區左北段1648地號等31筆地號
建築主 台湾中央政府行政院體育委員會、高雄市政府工務局
設計者 伊東豊雄建築設計事務所+竹中工務店+劉培森建築師事務所
施工者 互助営造股份有限公司
建築規模 建築面積
延床面積
階  数
最高高さ
25,553.46m
98,759.31m
地下2階、地上3階
35.5m
主要用途 競技場(IAAF class-1)
観客席数 40,000席(仮設席増設で最大55,000席)
主要構造 鉄骨構造、鉄筋コンクリート構造

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