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『地震-5』-構造躯体と自然の力

 
「躯体」「構造躯体」という言葉は、耳慣れない、あまりお目にかからない漢字ではありませんか?

地球には引力があります。リンゴが下へ落ちるのは「地球の引力」が原因です。
私たちが暮らしている住宅あるいは会社のビル、工場、病院、学校など、全ての建物にも同じように引力が働いています。建物は、建物自身の重さや、建物に載るいろいろな重さ(人や、机や、本棚や、場合によっては自動車やエレベーター、屋上の土やプール、機械や水槽など、ありとあらゆる建物上にあるものの重さ)に耐えて自立しなければ成りません。(100階建て建物の1階柱は、100階分の床と床に載る全ての物の重さを支え続ける必要があります。)

それと同じように、地震や雪、台風や水や土の圧力など、是もまた、ありとあらゆる自然の力に対して耐えられるよう作られている必要があります。例えば大雪が降ったがために屋根が潰れたという事はあってはなりませんし、地震の激しい揺れに対しても建物が崩壊して中に居た人が危険に曝されるような事があってもいけません。(阪神淡路大震災で、ビルのどこかの階が丸ごと潰れてなくなっていましたが、あのような事があってはならないのです。)
それらの力(自重や地震・風・雪などの自然の猛威)に対抗するものが、柱、梁、壁(筋交い等も含む)、床、基礎など「構造躯体」と呼ばれるものです。
建物にタイルを張ったりガラスを入れたりといった仕上げをする前の裸の状態を思い出してください。鉄筋コンクリート造の建物の場合にはコンクリートを流し込むためにベニヤでいれもの(型枠と呼んでいます)をつくっていますが、それらの型枠を取り除き、コンクリートの地肌が見えたとき、鉄骨造の場合には鉄骨の柱と梁を組み立て、床を作っているとき見える景色全体が「構造躯体」です。

建物はよく人間の部分に例えられます。建築のデザインは美貌やプロポーションに、使いやすさや快適性は内臓や健康に、設備の配管は人間の血管や神経系に、そして、建物の骨組みは人間の骨格やそれを動かす筋肉に・・・・。人間の骨や筋肉には、体重を支え、走ったり飛んだりした時の衝撃にも耐えなければならない大切な役目がありますが、「構造躯体」も建物の安全を一手に引き受けています。自然の力が建物にかかってくると、建物の骨組みは、しなったり踏ん張ったり、縮んだり伸びたりしながら、雪に耐え、風に耐え、地震に耐えているのです。万一、自然の力に負けて構造躯体の一部である柱や梁が損傷を受けると、人間の骨が折れて立てなくなるのと同じで、建物が全壊したり傾いたり、建物機能(水道、ガス等)に大きな被害がでたり、最悪の場合は人命が失われたりしてしまいます。    (

そのため、建築基準法で、構造躯体の安全性を確保する為のルールを定めています。ただ、自然の猛威は人知を超える事が良くあります。
同じ雪でも、パウダースノーのような雪合戦の出来ないサラサラ雪もありますが、これとはまったく違い、水気をいっぱい含んだ重いベタベタ雪もあります。設計段階では予想もしなかった春先の大ドカ雪に耐え切れずに、たまらず構造躯体が潰れてしまうこともあります。

地震については、その性質がまだよく把握されて居ないこともあって、地震が起きるたびに構造躯体に被害が出ています。(その反省を取り入れ、たびたび基準法が改正されており、その改正のおかげで近年大幅に安全性が向上している事は「知っていますかー建築基準法では」で示したとおりです。)

外国で大竜巻に巻き上げられる住宅の映像を見られた事があるかと思いますが、日本でも、竜巻で電車が脱線転覆した事があります。日本は世界でも有数の地震国で、たいていの建物は地震に耐えるように構造躯体を設計しておけば、風にも耐える構造躯体になると思われていました。でも、建物が高くなったり、狭い土地に無理をして細長い建物を建てたりした場合には、風の力のほうが大きくなることもあります。
今日本で一番高い横浜のランドマークタワーも、風の影響のほうが地震より大きいと言うことです。細長い建物に風の力が大きくはたらき、構造躯体が耐え切れなくなると、建物の片側が基礎ともども浮きあがったり、柱が足元で引きちぎられたりする場合もあります。「風恐るべし」で、決して侮れない相手なのです。風の悪さは建物全体にたいするだけでなく、風そのものや飛来物で窓ガラスが割られたり、台風で木が倒れてそのため建物が壊れたりもします。室生寺の五重塔も倒木により大被害を受け、修理を終えたばかりです。

1964年におきた新潟地震のときは、とんでもない事が起きました。
海岸で、波が引いた後の砂を手ですくって、揺らしてみてください。固まりだった砂がどろどろと指の間から流れ落ちてしまいます。これは液状化現象といいますが、砂粒の間を水が動き回る事で、砂が互いに支えあっていた関係が崩れてしまうためにどろどろになってしまうのです。
これが建物の下で起きると、建物を支えきれなくなるために、建物がブクブクと沈んでしまったり、片方だけが沈んだ場合には建物が傾いてしまうということになります。このため、4階建ての建物が3階建てになってしまったり、公団型の4階建て建物が横倒しになったりしました。水と地震の悪戯というにはあまりにも大きい被害でした。
逆に、浮力が働いて建物が浮き上がってしまう事もあります。お風呂で洗面器をさかさまにして中に空気がたまっていると、沈めるのにたいへんな力が必要です。これが浮力です。地下室だけの建物を考えてみてください。都市部で地下水をどんどんくみ上げたために水位がどんどん下がって大問題となった事がありました。反省して最近はくみ上げを差し控えるようになってきましたが、そうすると地下水位が上がってきます。建物を建てた時には地下水位がずっと下だったものが、その後どんどん地下水位が上がってくると、建物に浮力が働いて、地下室だけで上の階が無い建物では重石が無ければ浮き上がってしまいます。地震のときに水位が変わって水槽が校庭などに顔を出したりするのを見かけたこともあります。JRの東京駅では、地下深く大きい為に働く浮力もとてつもなく大きく、構造躯体が浮き上がるのを防ぐ為にコンクリートの重石を増やしたり、錨をつけたり、必死で水を排出して水位を上げないようにしたりしているということです。

水の怖さにもまして怖いのが土の力です。土は本来がなだらかな形をしていたいようで、時々がけ崩れがおきるのは、「なだらかな形になりたい」との土の悲鳴だそうです。土を垂直に切る事は、なだらかになろうとする事に反していますので、ほんらい、無理なことなのです。
地下室を掘っている現場を垣間見た事はありますか?太い鉄の柱を細かくたて、鉄の柱と柱の間には厚い木の板をはめ込んでいますが、柱頭は反対側の柱の壁との間に突っ張り棒を水平に入れています。その水平ツッパリ棒も驚くほどの太さです。これは、土が壁の柱を押す力があまりに強い為に太いツッパリ棒が必要なのです。こんな努力をしていても≪山が来る≫といいますが、そのツッパリ棒が壊れ、鉄骨の柱もぐしゃぐしゃにして土が今掘ったところへ山崩れを起す事があります。
山の斜面に建つ建物では、片側はオープンですが反対側は土という階が良くあります。この場合には、後ろからの土の力を建物だけで何とか処理してあげなければなりません。土を受けるコンクリートの壁は厚くなりますし、建物が押し出されないようにいろいろな工夫を凝らさなければなりません。まして、地震が起きた時の事を考えると、土と地震の両方の力を同時に受ける事になり、構造躯体に対する負担は並大抵なものではありません。

構造躯体は、この様に自然のさまざまな巨大な力に対して、中に住む人間を守り、安全を確保する大切なものなのです。これら躯体を設計する専門家を構造設計者・躯体の設計から施工までいろいろな場面で安全の確保の為の技術に携わる専門家を構造技術者と呼んでいます。(JSCAは構造技術者集団です。)

(自然のいろいろな力にたいして安全であるように注意を払ってはいますが、対テロ活動を対象とはしておりません。太平洋戦争のときには、爆弾に対して建物をどう守るかと言う対爆研究が大いになされていたようです。そんなことの対応策を考えなければならない世界にだけはなってほしくありませんよね。)
(HP部会 Y.K)

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