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『地震-6』- 地震リスクと予想最大損失率(PML)

 

不動産の証券化や企業のリスクマネージメント強化の動きに伴い、建物の地震リスク分析が行われるようになってきました。 地震リスク分析とは、将来発生する可能性のある大地震が、保有資産にもたらす経済的な損失の大きさと、 その発生確率を分析するものです。この地震リスク分析でよく使われるのがPMLという言葉ですが、 PMLとは一体何を意味するのでしょうか。

不動産の持つ資産価値を適正に評価する手法として、デューデリジェンス(建物適正評価)と呼ばれる一連の調査があります。 デューデリジェンスは不動産の「建物・環境の調査」「法律・会計上の調査」「収益性の調査」に大別されますが、 建物調査のひとつに、建物の物理的事実を評価するエンジニアリング・レポートと呼ばれる調査があります。 このエンジニアリング・レポートの中で、地震リスクに対する不動産の資産価値を表す指標として使われるのが、 PML (Probable Maximum Loss:予想最大損失率)という指標です。

PMLは、元来保険業界で使われてきた指標で、米国の火災保険で保険情報の一つとして生まれ、 その後、地震保険などの巨大災害のリスク評価でも用いられるようになった概念です。 日本の地震保険では、昭和41年の創設以来、総支払い限度額の設定指標としてPMLが用いられ、 保険制度運営上重要な指標となっています。 これに対して、最近になってPMLを用いるようになった建築業界・不動産業界で、 一般的に使用されているPMLの定義は「対象施設あるいは施設群に対し、 最大の損失をもたらす再現期間475年相当(50年間で10%を超える確率で襲ってくると予想)の地震が発生し、 その場合の90%非超過確率に相当する物的損失額の再調達費に対する割合」という難解なものです。 このPMLを少しでも簡単にいいかえる努力をすれば、下記のようになります。

 ① 対象とする地震は  建物の建物使用期間中50年で予想される最大規模の地震 
再現期間 475年相当=50年間で10%を超える確率)
 ② 対象とする損失は  予想される最大の損失( 90%非超過確率
 ③ PMLとは  予想される最大の損失(補修費)/再調達費x100 (%)

例えばある建物の再調達費(現時点で新築すれば10億円)が、最大規模の地震(建物の敷地ごとにその大きさを予想、例えば震度6強~7程度)を受けた場合の補修費(構造体、仕上げ材、設備・機器の損失を含む)が最大で2億円かかると予想されると、その建物のPMLは(2億円/10億円)x100=20%となります。この定義からわかるようにPMLは、0%(無被害)から100%(全損)の値で評価され、PMLの値が小さいほど建物の地震による被害リスクは小さいことになります。

表-1 PMLと予想される被害の例 (野村不動産HPより)
PML(%) 危険度 予想される被害
0~10 きわめて低い 軽微な構造体の被害
10~20 低い 局部的な構造体の被害
20~30 中位 中破の可能性が高い
30~60 高い 大破の可能性が高い
60~ 非常に高い 倒壊の可能性が高い

1981年以降の建築基準法(新耐震設計法)により設計された建物は、PMLが10~20%程度になることが一般的ですが、1981年以前の旧建築基準法により設計された建物は、PMLは20%以上の大きな値となることが多くなります。PMLは不動産の新しい評価尺度として定着しつつあり、PMLが20%を超えると建物証券化の格付け低下に繋がったりするので、建物を証券化する場合には不動産価値を上げるため、耐震補強によりPML値を求められる適正レベルに低下させる必要があるわけです。

新築の建物においても、免震・制震といった最新の構造技術を採用した建物はPML値が小さくなり、将来、建物を証券化する場合の格付けが高くなります。このようにPMLは構造技術の耐震効果を客観的に表すことができる指標のひとつであり、建物ごとに耐震性能を独自に設定する性能設計の目標値として採用することもできます。

建物の適正な価値を表す新しい指標として、PMLに今後注目していく必要がありそうです。


(荷重部会 T.F)

図-1 PMLの概念図(鹿島建設HPより)

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