上向きの円弧上になった構造物をアーチと呼びます。今回、鉄道の高架橋に使われている大きなアーチから、レンガ積み建物に使われている、小さなアーチまで紹介しました。そこでアーチの形がどの様に生み出されたかを考えてみましょう。
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旧交通博物館(旧万世橋駅) | 神田駅からお茶の水駅 |
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曲げ変形 | ||||
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せん断変形 | ||||
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まずは割箸を図-1のように箸置きに載せて中央を指で押して見ましょう。図-2のように変形するはずです。
では、割箸をカッター等でサイコロ状にぶつ切りしてそれを又接着剤にて接着して図-3のような割箸であると想像してみてください。
実はこの割箸の1つ1つのサイコロは図-4のような形と図-5のような形を合わせた形をしています。
さて我々構造技術者はこの図を実際は曲げモーメント図、せん断力図として表します。
では図-1の指は1本ですが図-9の様に割箸全長に均等に全ての指を載せた場合の曲げモーメント図は図-10のようになります。
割箸の長さが長くなるほど、ほとんどが曲げ変形になります。よってこの曲げモーメント図に変形も近寄ってきます。
ですから力を加えた時に図-3様な形に変形(カテナリー曲線)して力が釣り合っているとすれば、この形を逆向きにすれば、その力が加われば平らになることになります。よってそれ以上に大きな変形のアーチを作れば、アーチはアーチのままの形でいられることになります。基本的に美しいアーチはカテナリー曲線を逆さまにした形と言われています。やはり、昔の人は自然の形を参考に建物を作っていたことがわかります。
理論的には以上ですが、基本的にはそれを造るという作業が入ります。
割箸のサイコロ状のものを石とすれば、石と石の接着材はありません。現在では高強度のモルタルが開発されていますが、昔はありませんでした。
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図-11 |
ですから、上からの力でサイコロが落ちないようにするには、図-4を逆にした形で、図-11のような形でアーチを造れば下に落ちづらくなり、接着材の強度も高強度でなくても良くなります。
この形、先程の富岡静止製糸工場のアーチにあった、キーストンの形と同じですね。
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あまり難しいお話しは省いて、アーチ状の構造に力が加わったときの変形する姿を、建築構造計算で利用しているコンピュータソフトで解析した動画でご覧に入れましょう。直感的に見てください。
動画の中の部材は、赤い色の部分に大きな力が加わっていることを表しています。
図-12は、地面に接している部分ががっちりと固定されているケースの変形と部材にかかる力です。地面に接している部分が固定されている(固定支承※)のでそこに大きな力がかかっています。
図-13は、地面に接している部分の位置だけが固定されていて、接している部分は回転できるようになっている(ピン支承※)ケースの変形と部材にかかる力です。地面に接している部分が回転できるので、その上の中間部分が曲がってそこに大きな力がかかっています。
図-14は、地面に接している部分が滑るように自由に動くようになっているケース(ローラー支承)の変形と部材にかかる力です。地面に接している部分が滑って横に動くので、アーチの天辺が広がるようになり、そこに大きな力がかかっています。(※参考:前回特集「夏休み てく・テク 山手線:ホーム上屋(構造体)の作り方」)
では、最後に直径30mの半円アーチの解析結果の比較を載せておきます。
最大垂直変位
δmm |
最大曲げモーメント
M kNm |
最大せん断力
Q kN |
最大軸力
N kN |
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Fix | 図-12 | 5 | 563 | 226 | 493 |
Pin | 図-13 | 10 | 485 | 178 | 493 |
Roller | 図-14 | 193 | 3025 | 218 | 493 |
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※掲載された記事は執筆当時の法令・技術情報に準拠して執筆されています。ご留意ください。