JSCA賞 受賞者JSCA AWARD WINNERS

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第34回

奨励賞

嘉麻市庁舎 / 福田 光俊

建物名称 嘉麻市庁舎
所在地 福岡県嘉麻市岩崎1180-1
主要用途 市庁舎建築主 嘉麻市
設計監理 株式会社久米設計
施工 株式会社淺沼組
建築面積 2,760.74㎡
延床面積 9,652.99㎡
階数 地上6階
最高高さ 24.72m
主要構造 RC造・一部S造

福岡県の旧山田市・稲築町・碓井町・嘉穂町の1市3町が合併し2006年に誕生した嘉麻市の新庁舎計画である。計画敷地は周囲が山林で囲まれた嘉穂盆地内に位置し、夏冬・昼夜の気温差が激しく、季節・時間によって風向きが変化する盆地性気候も地域の特徴である。

敷地近傍を流れる遠賀川の恵みや盆地特有の環境を最大限に生かしつつ、防災拠点庁舎としての安心・安全性の確保とイニシャルコスト縮減を両立した合理的な建築のあり方を追求した。

イニシャルコスト縮減の観点から、「コンパクトな正方形平面(外装面積最小化)」、「基壇のないワンボリュームの計画(免震層最小化)」、「アウトフレーム=ファサードデザイン(外装材削減)」とした結果、無駄なものが削ぎ落とされたコンクリートの「矩形」が残った。このコンパクトなコンクリートの「矩形」を遠賀川の畔に彫刻的に佇ませ、美しい嘉麻市の風景を阻害することなく新たな風景へと更新した。

平面計画の基本は、国道のある西側にメインエントランスとコア、中央部にエコボイドと待合ロビーを配置し、遠賀川と豊かな田園風景が広がる東側にフレキシブルな執務環境を確保することを平面計画の基本とした。

執務空間を二重床・床吹出空調とし、RC直天井とすることで、震災時の吊天井脱落により防災機能が停止するリスクを完全に排除した。梁型をなくして、階高を抑えながら天井高を確保するためにPC鋼材を配した鋼管ボイドスラブを採用した。

外周部からシームレスに連続したフラットな天井面が周辺の田畑や山並みの緑からバウンドした間接光が室内へと導かれ、且つ自然換気のための風を遮ることなく取り入れる道筋となっている。

また、盆地特有の一定でない風環境に対してウィンドキャッチとなる正方形グリッドのアウトフレームは、夏季の直射日光を遮るライトシェルフとしての役割も担っている。エコボイド周りの扁平断面柱は構造システムとサインシステムを融合したサインウォールとして地震力の多くを負担させることでアウトフレーム部の地震力負担を抑えている。

建物全体として剛性・耐力の高い骨組とすることで、免震層の効率的な長周期化を実現するとともに、各階の床応答加速度の抑制に貢献している。嘉麻市の気候特性を活かしながら、建築計画や環境計画と綿密に絡み合う構造計画とすることで、コンパクトで機能的な防災拠点庁舎をコストを抑えながら実現できている。

<講評>

北部九州最大の川である遠賀川は、古来より稲作文化を形成し、近代になってからは石炭産業を支えてきた、地域にとっての「母なる川」であり、福岡県中央の筑豊地方に位置する嘉麻市にその源流がある。

同市は1市3町の合併により2006年に誕生した新設の行政区域で、当初は現行耐震基準を満たしていない旧庁舎を利用した「分庁方式」で運用されていた行政体制を、地域の活性化を目指して「本庁方式」とするための新庁舎が必要となっていた。

2016年4月の熊本地震被災後に,九州内で実質的に最初に公告された市庁舎のプロポーザルが嘉麻市新庁舎計画であり、整備にあたっての財源の点から合併特例債活用期限の2020年3月竣工が求められた点も大きな特徴である。

このような背景のもとで計画された新庁舎は、遠賀川の恵みや盆地特有の環境を最大限に生かしつつ、安心・安全性確保とイニシャルコスト縮減の両立を目指した建築である。一番の特徴は、外装面積が最小となる正方形平面としたうえで、鉄筋コンクリート打ち放しの扁平断面の柱梁による格子状のアウトフレームをそのまま活かした、コンパクトで彫刻的なファサードデザインであろう。

このアウトフレームは、内部の熱負荷を低減するルーバーや、盆地特有の一定でない風向に対して扁平柱がウィンドキャッチ効果を発揮することを活かした自然換気システムとしても貢献している。

ファサードの重要な要素である格子の見附幅(梁成、柱幅)は、ボイドスラブを支持する逆梁として、また免震建物の上部構造として適切に地震力を負担するラーメン架構としての構造性能を確保するよう綿密に検討して決定された。

また、スパン10.8mの執務スペースの床は、重量の増加を押さえながら曲げ剛性を確保した厚さ450mmのボイドスラブによる梁型のないフラットな構造である。この床構造は、基準階高を3.6mまで抑えた中で地震時に落下物の心配がなく、執務空間への導光効果が期待できる直天井による執務空間を生み出している。このような“あらわし”となった構造体は、それぞれ意匠計画、設備計画と綿密に関連付けて、機能的かつ合理的な視点から課題解決を丁寧に進めることで得られた解といえる。

要素技術としては目新しいものはないが、意匠、設備との組み合わせにオリジナリティを感じることができる。最上階に設けた議場の構造計画、中央のエコボイド廻りの架構のあり方など、より良い解決の可能性について審査員から示唆された点がいくつかあったものの、優れた作品の実現のために福田氏が構造設計者として果たした役割を高く評価し、ここにJSCA賞奨励賞を贈るものである。(多賀謙藏)


photo by 八代写真事務所

福田 光俊

生  年 1985年(福岡県生まれ)
出身校 熊本大学大学院 自然科学研究科建築学専攻 修了
主要職歴 2010年 株式会社久米設計 入社
主要作品 宇土市庁舎/熊本保健科学大学体育館/アミュプラザみやざき/ 東松戸小学校

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