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第34回

奨励賞

天草市複合施設「ここらす」/ 宇田川 貴章

山に向かって緩やかな坂道を上るとその特徴的な屋根が見えてくる。

駐車場からのアプローチを重視した位置にメインエントランスを配置しているのは、天草の主要モビリティが自家用車であることを考えると建築計画的にも理にかなったプランニングであることが理解できる。1 階ホールの先に見える中庭からの明かりが住民の賑わいを想像させる。

その中庭を抱えるように建物が「く」の字に湾曲した形で配置されている。「おおらかな庭」と呼ぶ中庭から立体的に繋がる2 階に進むと本建物で最大の特徴である近似カテナリー形状の木質「重ね透かし梁」が見えてくる。2 階は天草市の中央図書館になっている。

中庭に負けず劣らずおおらかな空間を創出しており、重ね透かし梁の緩やかなカーブが図書館の温かみのある空間と呼応している。2 枚の屋根に段差をつけ、屋根頂部に設けたハイサイドライトは、吊り架構のバランスが欲しくなる構造計画としては非合理的な側面もあるが、この空間には重要な要素であり、逆に構造設計者の挑戦欲を掻き立てる部分にもなっている。

梁間方向は10.8m の2 スパンで構成され、それぞれのスパンに900mm間隔で木梁を配置している。両側の鉄骨H形鋼柱にはタイロッドブレースを設け、地震力と木梁から伝達されるスラスト力を処理させている。10.8m の大スパンを木梁で構成する場合、集成材を採用することが考えられるが、本建物の木梁は、集成材を用いず、流通の多い規格サイズの製材のみを組み合わせて実現している。

地元天草の木材製造業者と密な協働をし、製作可能な材料と寸法を選定し、上弦材には強度の高い檜105mm 角を2 列並べ、束材と下弦材には製造最大寸法の杉210mm×105mm で構成した。上下弦材の製材長さは、歩留まりを意識し、定尺の4m 材から2 本取り出すことのできる1950mm を構成長さにするなどコストにも配慮した計画となっている。

木梁の実大モックアップを製作して施工性の確認と、長期荷重の3 倍まで載荷した試験を行い、設計想定内の挙動であることを確認している。これら全てにおいて宇田川氏自らが行動しディテールを考案し、品質の高い建築に責任を持つことは構造設計者として最も重要なことであると考える。

現地審査では、重ね透かし梁の束材の意味や組立材の接合要領、また、H 形鋼柱の断面プロポーションやハイサイドライト部のフィーレン架構の考え方など様々な議論が交わされたが、設計者がオリジナルの構造アイデアを活用し優れた建物を実現したことは、JSCA 賞奨励賞に相応しい技量の構造設計者であると評価し、これを贈るものである。(中川健太郎)

<建物概要>

建物名称 天草市複合施設「ここらす」

所在地 熊本県天草市浄南町4-15

主要用途 図書館

建築主 天草市

設計監理 株式会社日建設計

施工 吉永・金子・大昌特定工事企業共同体

建築面積 4,605.10㎡

延床面積 5,452.87㎡

階数 地上2階

最高高さ 12.8m

主要構造 RC造・S造・木造(屋根)

<構造概要>

本施設は、天草市に計画された図書館・保健所・公民館を用途とした約5000 ㎡の複合施設である。

広い敷地の中で、南西に位置する十万山への眺望、そして海からの風や自然光を取り込むべく、敷地南側に大きな庭を設け、2枚の屋根を段違いに架けている。

平面形状は庭をゆるやかに取り囲めるよう大きく湾曲した細長い形状として全長約100m、短手スパンは21.6m としている。窓とした建物両面から自然光が入るうえ、段違いの屋根の間にハイサイドライトを設けているため建物中央からも採光が可能となり、明るく柔らかな内部空間を実現している。

1階は庭と連続することから、鉄筋コンクリート造の耐震壁付きラーメン構造として剛強な構造とし、スロープも耐震要素の一部としながら、耐震壁をバランスよく配置している。

2階は主架構(柱梁)を鉄骨造、屋根小梁は木造として、耐火性能(ロ1準耐火建築物)を確保している。鉄骨柱は桁行方向に3列(外周・中央・内周)配置しており、外周と内周の2 列は桁行方向を強軸としたH-250x250x9x14 を3.6m ピッチ、中央列は梁間方向を強軸としたH-300x300x10x15 を7.2m ピッチで配置している。

中央列の柱の柱脚はRC 根巻きとして、剛性と耐力を確保し、これらの柱の柱頭は桁行方向のみ鉄骨梁で剛に接合している。梁間方向は900mm間隔で木梁が架けられているほか、外周と内周の鉄骨柱にはタイロッドブレースを柱頭と躯体の間に斜めに設け、タイロッドブレースにより地震力と木梁から伝達されるスラスト力を分担させ、木屋根には構造用合板(24mm)を張り、面内剛性を確保している。

木架構は、天草の製材による近似カテナリー形状の「重ね透かし梁」で、集成材を使わずに大スパンを実現している。重ね透かし梁は、構造設計者として探求を重ねて考案し、提案して実現させた10.8m スパンの組み立て木製梁である。

上弦材を檜 105mm 角ダブル、束材と下弦材は杉 210mmx105mm を採用し、上弦材と下弦材の継手位置をずらし、定尺 4m 材を二分割して部材ロスを減らす合理的な工夫も行っている。構造の基本性能の確保に加えて、ハイサイドライト等により魅力的で心地よい建築空間と固有の外観を同時に実現し創出している。 

写真 太田拓実

宇田川 貴章

生  年 1971年(東京都生まれ)
出身校 武蔵工業大学(現東京都市大学)大学院 工学研究科建築学専攻 修了
主要職歴 2007年 株式会社日建設計 入社
主要作品 新宿住友ビル制振改修/國學院大學 総合学修館(6号館)/白金の丘学園/ 成田国際空港 第二旅客ターミナル連絡通路

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