JSCA賞 受賞者JSCA AWARD WINNERS

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第34回

新人賞

早稲田大学本庄高等学院体育館

埼玉県本庄市に建設された高等学校の体育館である。

緑豊かな広大な敷地にRC打放しの直方体が浮いたように忽然と現れる様は、一般的な体育館とは程遠い。建築面積2420㎡、延床面積4470㎡の本体育館には、1階にトレーニングルーム、更衣室、多目的室などがあり、2階に平面32m×43mのアリーナがある。

内外壁をはじめ建物全体でRC打放しが建築表現として使われ、目地のない打放し外壁やアリーナ側の内壁の大きな壁面は力強く迫力がある。

建物の浮遊感を演出する厚さ180mmの外壁は2階床レベルから立ち上がり、厚さ250-400mmのアリーナ側の内壁により、床と壁とで構成されるフィーレンデール構造で支持される。アリーナの周囲には、外壁とアリーナ側の内壁の間にランニングコースと空調等の設備スペースが設けられ、ランニングコースの両側の壁には大小の円形の開口がある。

これらの開口の配置はランダムのように見えるが、光と空調のシミュレーションにより、アリーナ内部に直射日光が入らないことにも配慮して計算された結果である。壁面と架構のFEM解析により、部分的な応力集中による打放しコンクリートのひび割れ防止も検討された。

アリーナの屋根は鉄骨の斜め格子梁構造であり、壁の面外方向の水平力を直交壁に伝達する機能を兼ねる。アリーナへの採光の主体は、外周付近のトップライトからの間接光であり、その淡い光は壁面の迫力を強調し、空間を印象付ける。

思春期をここで過ごした生徒たちは、卒業後もその当時の活動の記憶と共にアリーナやランニングコースの特徴的な空間を思い浮かべることだろう。

受賞者の黒川氏は、本体育館の設計以前にも目地無しのRC打放しに挑戦し、その経験を生かしたという。意匠設計者と共に、RC打放しによるマッシブな建築造形表現にこだわり、コンクリートの配合から型枠の仕様と割り付け、打ち継ぎ部を含む詳細も設計してプロジェクトの完成度を高めた。

現地審査では、多目的室まわりのPCやハンチ付きスラブ-壁架構の設計、壁面の円形開口の納まりなどのほか、屋根構造もRCとする可能性についてなど多岐に渡る質疑があった。それらに、丁寧に対応する応募者の真摯な姿勢が印象的であった。独創的な建物の構造設計をまとめ上げたことを高く評価するとともに、今後の更なる活躍に期待してJSCA賞新人賞を贈りたい。(高木次郎)

<建物概要>

建物名称 早稲田大学本庄高等学院体育館

所在地 埼玉県本庄市栗崎字西谷239-1,239-3

主要用途 高等学校の体育館

建築主 学校法人早稲田大学

設計監理 株式会社日建設計

施工 戸田建設株式会社

建築面積 2,417.74㎡

延床面積 4,465.86㎡

階数 地上3階

最高高さ 平均地盤面+18.55m

主要構造 RC造・一部S造

<構造概要>

本計画地は早稲田大学が有する緑豊かな広大な敷地内に位置し、既存教室棟に隣接する形で計画された体育館である。本体育館では、大開口のガラス窓から一律に光を取り入れるのではなく、大空間のアリーナを中心として、外周部に円形開口を有するRC造の二重壁を設けることで、アリーナ空間を間接的な自然光で満たすこと目指した。

建物外周部のRC造二重壁には、内外壁に円形開口を設け、力の伝達性能の確保と併せて光・空調シミュレーションを繰り返し、建築、環境を統合した空間を計画した。アリーナ内部に直射日光が到達することのないよう、年間の太陽軌道、光を壁面に投影して、二重壁の開口の位置関係を計算しつつ、同時に空調シミュレーションと力学的な開口間隔を考慮して開口の大きさ、数を決定した。

建物全体として遺跡のような力強いファサードを実現するために、RC造壁面にはひび割れ誘発目地を設けずに、鉛直力、水平力を負担する耐力壁として計画した。内壁は主たる耐力壁とし、開口部の安全性検証はFEM解析にて応力伝達性能を確認した。

外壁は内壁からの片持ち床スラブを介して接続することで、フィーレンディール架構を形成し、片持ち床スラブの鉛直荷重性能を高める設計とした。目地の無いRC壁面を実現するために、配筋量によるひび割れの分散、ひび割れ幅の検討を行った。

加えて、建物形態として最外周の壁を地面に接地させないことで、外壁を地面の拘束力から開放し、ひび割れ対策と印象的なファサードの構成とした。現場段階ではコンクリートの配合計画、現地生コンプラントのコンクリート性状に合致した添加剤の選定を行った。

1階では、室毎に適切なスパン、天井高さを確保するため室用途に応じた構造計画を行った。特にスパンと天井高さが要求される多目的室では、PC梁を逆梁として懸架し、梁-梁間を空調、照明の設備ルートとすることで意匠、設備計画との統合を行った。

講義室やエントランスでは、ハンチ付スラブ-壁架構として、梁型や柱型を露出することなく、広がりのある空間を実現した。スパン約40m超のアリーナ大屋根は、斜め格子鉄骨架構として平面ブレースを省略し、屋根荷重やRC造二重壁が常時面外方向に倒れようとする力を、直交方向の壁の面内力として伝達する計画とした。鉄骨梁成は500mm~700mmの断面とし、耐力壁の円形開口と併せて特徴的なアリーナ空間を実現した。

撮影全て:阿野 太一

黒川 巧

生  年 1986年(東京都生まれ)
出身校 慶應義塾大学大学院 理工学研究科開放環境科学専攻 修了
主要職歴 2011年 株式会社日建設計 入社
主要作品 東京音楽大学中目黒・代官山キャンパス/On the water

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