JSCA賞 受賞者JSCA AWARD WINNERS
第32回
新人賞
丘の礼拝堂
建物名称 | 丘の礼拝堂 |
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所在地 | 長崎県長崎市四杖町2671-1 |
主要用途 | 礼拝堂 |
建築主 | メモリード |
設計監理 | 百枝優建築設計事務所 |
構造設計 | 佐藤淳構造設計事務所(荒木美香) |
施工 | 勇信建設 |
建築面積 | 125.27m² |
延床面積 | 125.27m² |
階数 | 地上1階 |
最高高さ | 8.395m |
主要構造 | 木造 |
長崎市郊外にある、広大な農業公園内の丘に建つ礼拝堂である。事業者の要望は、既存宿泊施設のリニューアルに合わせて、長崎湾が見渡せる庭に結婚式ができる場所を作りたいというものであった。これに対し建築家の百枝氏から提示されたのは、海と山の景色を背景に、木々が連なりながら軽やかに浮いているイメージである。この装飾と構造が一体となった、浮遊感漂う空間を実現するため、木造とスチールを組み合わせた設計とした。
構造は、平面10m×10m×高さ約8mの直方体に、樹状のユニットを3段フラクタルに積層することで、屋根を支持するシステムである。ユニットは、”幹”に相当する5本の束ね柱と”枝”に相当する8本の圧縮材で構成し、それぞれの先端を引張材でつないでいる。正方形のユニット平面を頂点が接するように並べ、その接点に次の層の幹が載るように積層する。1つ上の段では平面的に45度回転するルールとすることで、ユニットの寸法は1/√2倍ずつ縮小され、数は2倍ずつ増殖する。圧縮材には一般に流通する杉の製材を用いている。下段ほど1本あたりの応力が大きくなるため、ユニットの寸法と呼応するように断面を変え、下段120角、中段90角、上段60角としている。
引張材は、浮遊感を実現するために細い丸鋼とすることを考えたが、ユニットを積層するだけでは、全体座屈強度が不十分であった。そこで外壁の四隅に耐力壁を設けて、建物全体のねじり剛性を上げることで座屈抵抗性を増すこととし、座屈解析及び模型実験により座屈補剛の効果を確認した。またこの耐力壁が水平力を負担することで、樹状ユニットは鉛直力のみを分担する設計とした。結果、引張材の断面は、ユニットの外周方向でM16、放射方向でM12とし、ここを細い丸鋼としたことが全体の浮遊感を印象付ける重要な要素となった。
ディテールについて配慮したのは、1点に複数の材が集まる箇所で複雑にならないようにすることである。圧縮力がかかる枝の根元では支圧で応力伝達できるようにし、引張材が1点に集まる部分では、方向によって引張材の高さを変えて集中を避けている。
このようにして実現した構造は、樹状ユニットの積層が家系図のようにも見え、人と人、家と家とのつながりを感じさせる建築として、利用者に親しまれている。
荒木 美香
/ 生年 /
1984年(神奈川県生まれ、長崎県育ち)
/ 出身校 /
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 修了
/ 主要職歴 /
2008年 佐藤淳構造設計事務所 入社
2012年 東京大学大学院 学術支援専門職員/特任研究員 2020年 荒木美香構造設計事務所 設立
2021年 関西学院大学建築学部准教授
/ 主要作品 /
宝性院観音堂 / TRIAXIS須磨海岸 / アストラムライン新白島駅 / サニーヒルズジャパン