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第33回

新人賞

熊本城特別見学通路

建物名称 熊本城特別見学通路
所在地 熊本県熊本市中央区本丸地内
主要用途 その他 ( 屋外見学通路、事務所、便所 )
建築主 熊本市
設計監理 株式会社 日本設計
施工 安藤・間・武末・勝本建設工事共同企業体
建築面積 927.42 m²
延床面積 219.70 m²
階数 地上1階
最高高さ 19.93m
主要構造 S造・SRC造

2016年の熊本地震により熊本城は甚大な被害を受け、復旧工事が完了するまでに約20年の時間が必要で、そのほとんどの期間、安全上の観点から来城者が立ち入れない状況となった。本計画は、被災した熊本城内に“空中歩廊”を新たに設計し早期に来城者を招き入れることで、歴史的、文化的に価値の高い国の特別史跡を遊休化させることなく、「復旧工事」と「間近で安全に復旧過程を見学できること」の共存を実現させたものである。

国の特別史跡であり被災地であり、まちのシンボルでもある本敷地には配慮すべき点が多々あった。1石垣の多くが崩壊したことから、再度の地震の際に崩壊が想定される範囲には原則建物を配置しない。また、景観に配慮し樹木等の自然を極力残す。2特別史跡なので新築工事では遺構を傷めるような掘削は一切できない。3来城者の安全確保のため復旧工事動線と分離した空中通路を歩行させる計画とし、通路下部に工事車両を通す形態とする。

上記を、構造的なアプローチにより解決した。1遺構や石垣、工事動線や樹木のために基礎の置ける範囲が制限されるため、50mアーチ構造や37m方杖付きトラス構造等の長大スパンを採用する。また、比較的基礎が自由に置ける範囲でも、1本脚かつ長期荷重のみを支持する間柱で構成できるリングガーダー構造を用いて基礎を最小化することで、遺構や樹木への影響を減らす。2掘削ができないため置き基礎(基礎底=現状地盤面)とし、カウンターウエイトを兼ねたマットスラブを採用する。3高所に多数の来城者が利用する通路を設置するため、TMDやトラス状とした手摺による桁の剛性増大などの工夫で歩行振動による恐怖感低減を図る。
さらに、熊本城の景観と調和し歴史に呼応させる目的で、床板および根太は熊本県産材のヒノキを使用し軽量化を図るとともに、来城者の視点を阻害しないように通路桁を三角形ワーレントラス架構とすることで目線より上にフレームを設けず、かつ透過性を高める工夫をしている。なお、採用したアーチやリングガーダーは、城内に多数存在する歴史的様式美のそりやむくりを構造解釈している。

前例のないプロジェクトであったため、だれも経験したことのない様々な課題に対して、発注者・設計者・施工者と三位一体で挑み全長350m、高低差21mの見学通路を完成させた。この建築は、熊本城の復旧を見届ける20年間のみ存在し、熊本城の400年の歴史とこれからの未来を繋ぐ架け橋である。

堀 駿

/ 生年月日 /
1988年(愛知県生まれ)
/ 出身校 /
早稲田大学大学院
創造理工学研究科建築学専攻 修了
/ 主要職歴 /
2013年 株式会社日本設計 入社
/ 主要作品 /
YKK AP R&Dセンター / 公立藤岡総合病院 / 北青山三丁目アパート・港区立青山保育園・ 港区立赤坂子ども中高生プラザ青山館 / みやま市総合市民センター / 福岡銀行八女支店

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